【藤井聡】経済対策「20兆円」の実証的根拠 ~「負債」こそが成長の源泉である~

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授、内閣官房参与

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6月23日(木)にイギリスで行われたEU離脱を問う国民投票。
大多数の予測を覆し、離脱賛成派が51.9%、反対派が48.1%と離脱派が上回った。

多くのマスコミはイギリスのEU離脱の判断を
「愚かな衆愚政治」「イギリス人はこの選択を後悔することになる」などと批判した。

しかし、三橋貴明は「そうではない」と断言する。

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「イギリス激震~英国の没落から日本が学ぶべきこと」
http://www.keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_1980_mag.php.php

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今、「事業規模」20兆円の経済対策が、新聞紙上で大きく報道されています。

これはもちろん、デフレ「完全」脱却のためには、「一年間」で20兆円規模の内需拡大が必要だからです。

しかし――純粋な国費分、すなわちいわゆる「真水」がたった「5兆円」程度しかないのではないかという見通しに基づいて、「見かけ優先」にしか過ぎない「張りぼて」の対策だ、という「批判」的な記事も報道されています。
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/824239381010340
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/823383844429227

もしもこの対策が、本当に「見かけ倒し」の「張りぼて」のものに過ぎないのなら、デフレ脱却は不能となり、これまで総理が強調してきた、デフレからの「脱出速度を最大限上げる」という国民への説明と「実態」が乖離してしまう格好となってしまいます。

繰り返しますが、デフレ脱却のためには少なくとも2~3年の間は「デフレギャップ」を内需拡大策によってしっかりと埋めることが必要です。

ただし――その財出額の根拠となる「デフレギャップ」の測定方法については、多様な考え方があり、論争となってしまうこともしばしば。

例えば、日銀や内閣府は現在、GDPの1~2%程度のデフレギャップしかない、と推計しており、財出規模はその程度でもいいのではないか、という論調がしばしば主張されています。

しかし、日銀や内閣府の推計は「過小評価」されたものであることは、これまで繰り返し指摘されてきた通りです。
http://net.keizaikai.co.jp/archives/874

とはいえ、「どの程度過小評価しているのか」を正確に測定することは困難であることもまた、事実です。

そんな中、「潜在的な供給力を測定する」という代わりに、日銀統計で明確に測定できる「日本経済全体の官民あわせた総資金需要」(以下、ネットの資金需要)を測定する、という方法が主張されることもしばしばあります。
http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20160609-00000007-zuuonline-bus_all

そもそも「資金需要」は、理論的にはデフレギャップに一致するもの。

なぜなら、デフレギャップ(需要不足)があれば、その分だけ各企業は支出を減らし、結果、資金需要(おカネを使おうとする需要)が縮小する一方、デフレギャップが完全に消滅すれば(全ての財やサービスが順調に市場で裁けるため)、資金需要の縮小は止まることになるから――です。

したがって、このネットの資金需要は、理論的にデフレギャップの「代理変数」と見なすことができます。

しかも、なんと言っても、この指標には、

「大きな誤差を含み売る潜在供給力の「推計」作業を行う必要なく、官民の資産状況から(より少ない誤差で)直接「測定」できる。」

という大きなメリット(!)があります。

これはつまり、より正確に「必要な財出額」を測定することが可能となる、ということを意味しています(なお、在庫調整等のためのタイムラグは存在しますが、現在の内閣府や日銀のデフレギャップ値の様な「推定」が含まれていない分、より高い信頼性での測定が期待できます)。

さて、この変数を確認しますと、下図の様に、最新データでGDP比で3%程度、つまり金額にして15兆円程度の資金需要が不足し、「過剰貯蓄」が起こっている様子が確認できます。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=825161460918132&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3&theater

これこそ、経済成長のためには、この15兆円を上回る、最低でも20兆円規模の景気刺激策が必要な実証的根拠なのです。

とはいえ、以上の説明だけでは、なかなか理解しづらい方も多かろうと思います。ついては今回は、このグラフが意味する所を詳しく解説いたしたいと思います。

・・・・

そもそも、このネットの資金需要というものは、「ゼロ」ではじめて、経済の縮小が止まり、「マイナス」になってはじめて、経済が成長していく….という尺度です。

おおよそ資本主義におけるマクロ経済というものは、その内部の経済主体が「負債」をすることで拡大するものです。誰も負債を持たなければ、経済は全く変化しなくなります。

例えば、私が「今期儲けた100万円だけを使う」なら、GDPは100万円しか増えません。しかしその100万円に加えて、銀行から30万円を借りてそれを使えば、GDPは「130万円」も増えることになります。

この時、経済は、私が支出した「負債額30万円」の分だけ、成長することになります。

つまり、「負債は成長の源泉」、なのです。

(※  なお、より詳しく言うなら、その成長は「名目成長」であって、これは、「実質成長」と「物価上昇」の和、でもあります。そう考えますと、実質成長と物価上昇の源泉こそが、「負債」だということができます。)

一方で、私がその100万円の儲けを全て使わず、30万円貯金し、70万円しか使わなければ、GDPは70万円しか増えません。逆にいうなら、30万円の貯蓄分だけ、経済は縮小してしまいます。

つまり、「貯蓄は経済縮小の源泉」、なのです。

だからこそ、貯蓄・負債を把握することで、経済成長や経済縮小をより正確に把握することが可能となるわけです。

・・・

さて、以上の前提に基づいてこのグラフを解釈すると、いくつかのとても興味深い「7つの傾向」を読み取ることができます。

(以下、下記グラフを別ウィンド等でじっくりとご覧頂きながら、お読み頂ければ幸いです。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=825161460918132&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3&theater )

第一に、日本企業全体の資金需要(茶色線の企業貯蓄率)は、1998年の日本のデフレ下以降、一貫して「プラス」となっています。これは、企業が貯蓄を繰り返していることを意味しています。これは、それ以前は基本的に「マイナス」であったことと対象的です。

この「企業の貯蓄傾向」こそが、「デフレの正体」であり、「経済縮退のデフレ・エンジン」です。

第二に、90年代後半以降の企業の貯蓄率の増進とは正反対の推移を示しているのが、「一般政府収支」(青色線)です。これは、一般政府(つまり、中央政府と地方政府すべてを合わせた政府)の「貯蓄率」を意味します。この線からわかるのが、企業が貯蓄を増やし始めた90年代後半以降、政府はそれとは逆に「貯蓄を減らす=負債を増やす」という推移を辿っている、という点です。

これはデフレ化した90年代後半以降、民間が「成長の源泉たる負債」を縮小させ、経済を縮小させる圧力を発し続けている中、政府が民間の肩代わりをして「成長の源泉たる負債」をしてやり、日本経済を支えている――という構図にあることを示しています。

第三に、それらの結果として、この茶色線と青色線の合計値である「ネットの資金需要」(灰色グラフ)は、98年以降の「民間の貯蓄率の増加=資金需要不足」を大きく埋め合わせ、「ゼロ近辺」で増減を繰り返す格好となっています。

つまり98年以降、政府の財政のおかげで、「未曽有の大規模景気縮退」が抑えられた、という次第です。

第四に、そうであるにも関わらず、2000年代は、ネットの資金需要(灰色グラフ)は「プラス」で推移していることがわかります。これはまさに、日本経済でデフレスパイラルが回り、経済が縮小し続けていたことを意味しています。

第五に、そんな中、2010年以降、ようやく、ネットの資金需要(灰色グラフ)は「マイナス化」します。これはつまり、官民合わせた「負債」が拡大し、これを通して経済が「拡大」していったことを示しています。

これは、2010年から2014年の間、政府負債が高い水準(GDP比でマイナス10%程度)で推移していたことが原因です。

いわば政府支出を拡大したアベノミクスが、その政府支出の拡大=政府負債の拡大によって経済成長が果たされていたことを意味します。

そして、第六に、そうした「政府負債の拡大=経済成長エンジンの駆動」につられるようにして、2010年以降、企業は貯蓄率(茶色線)を縮小させていった事が見て取れます。

これこそ、「アベノミクスの好循環」と呼ばれるものであり、それが、政府支出の拡大=政府負債の拡大によって駆動されていったわけです。

しかし第七に、日本政府は、消費増税を行った2014年以降、急速に負債額を縮小させていきます(政府の青線が上昇していきます)。これは日本政府が、2014年以降、激しい「緊縮路線」に入ったことを意味しています。

そして、その帰結として2015年から、ついにネットの資金需要が「プラス」となったのです。

これこそが、昨今の大幅な景気後退の原因です。

そして、対GDP比で3%=15兆円程度の資金需要不足が生じている――というのが、今日の状況なのです。

この深刻な事態に対処し、経済成長を果たしていくためには、20兆円以上の「負債拡大」=「資金需要拡大」が不可欠なのです。それでようやく、5兆円=GDP比1%程度の成長が実現されることになります。

そしてそれさえ出来るなら、民間の資金需要も初期アベノミクスでそうなったように、確実に喚起されていくことになり、さらに経済成長が促されることになるのです。

・・・

以上、いかがでしょうか。

少々グラフの解釈が「ややこしい」とお感じになった方もおられるかもしれませんが、ご関心の方は是非、再度上記、ご一読の上、グラフをじっくりと解釈いただきたいと思います。

そうすると、今、日本経済にとって何が必要なのかがクッキリと見て取れるようになると思います。

ぜひとも我が国の力強い経済成長に向けた、「政府負債の拡大=真水を中心とした景気対策=政府による成長エンジンの駆動」を中心とした20兆円規模の経済対策が政治決定され、断行されていくことを、そ

ーーー発行者よりーーー

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しかし、三橋貴明は「そうではない」と断言する。

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