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2014年10月1日

【佐藤健志】プーチンに告ぐ!(2)

From 佐藤健志@評論家・作家

先週に続き、アメリカの作家ノーマン・スピンラッドさんによる、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンへの公開書簡をご紹介します。

前回の内容を簡単におさらいしておきましょう。
スピンラッドさんの公開書簡は、20世紀後半における自由主義諸国と社会主義諸国の対立、いわゆる「冷戦」の顛末(てんまつ)をめぐる評価から始まります。

ご存知の通り、1990年前後に社会主義陣営は次々と体制崩壊をきたしたわけですが、それは決して「自由主義が繁栄と幸福をもたらす」ことを意味しなかった。
というより2010年代の現在、自由主義はグローバリズムと結びつくことで、失業、賃金下落、社会的格差の拡大など、深刻な問題を多々もたらしている。

ですからロシアは、アメリカ主導による自由主義型グローバリズムに対抗する勢力の先頭に立てというのが、スピンラッドさんの考えです。
ウクライナをめぐる対立にしたところで、アメリカやEUが同国を取り込み、ロシアを追い詰めようとしたことにそもそもの原因がある。

プーチンがクリミア半島をロシアに編入させたのは、自国の安全と権益を守るための、当然の対抗措置だったというわけです。
ならば、次にプーチンがすべきことは何か?

というわけで、どうぞ。
分かりやすいように、冒頭の部分は前回の最後と多少、重複させてあります。

——————————————————————————————

ウラジーミル・プーチンに告ぐ。
貴君はほとんど武力を用いることなく、クリミアを取り返した。
(注:クリミアは1954年、ロシアからウクライナに割譲されたもの)

ウクライナ東方の国境周辺には、ロシア軍の部隊が集結している。
といって、貴君にウクライナ侵攻の意図があるはずはない。
ウクライナ、あるいは同国の東部地域を、武力の行使、または武力による威嚇によってロシア連邦に編入する、
そんなことを貴君が考えるわけがない。

貴君にはもっと雄大な目標があるだろう。
すなわちユーラシア連合の構築だ。
ロシア西方のカリーニングラード(注:ポーランドとリトアニアに挟まれたロシアの飛び地領)から、広大なシベリアを東に渡り、ウラジオストックやベーリング海峡にいたる領域を統合する。
北極圏の北部から、コーカサス諸国を網羅し、中国との国境まで南下する領域と言ってもよい。

ユーラシア連合は、たんにロシア連邦を拡張したものではない。
それはEUにも匹敵する多国家連合体なのだ。
ロシアはそのリーダーとなるだろう。
ちょうどドイツがEUのリーダー格となっているようなものである
まあこの場合、ロシアの果たすべき役割はもっと大きいだろうが。

この構想については、
「ソ連をスケールダウンしてやり直すだけじゃないか」という声もある。
なるほど、ユーラシア連合は「ソ連から共産主義イデオロギーを抜いたもの」とも形容できるだろう。

イデオロギーなどに頼ることなく、多文化が共生する新たな文明をつくるのだ。
ユーラシア連合がカバーする領域は、ヨーロッパよりも広い。
関税をめぐる協定を取り決め、統一通貨を採用することで、経済的な一体化を図ればよい。
ただし単一の国民国家にまとめあげようとはしないことである。

歴史を通じて、ロシアは西方に目を向けたかと思えば、シベリアから太平洋にいたる東方に目を向けるという往復運動を続けてきた。

ウラジーミル・プーチンに告ぐ。
貴君の真意は「ロシアは西方と東方のどちらにも目を向けるべきだ」だろう。
そしてユーラシア連合の創設者として歴史に名を残す、
それこそ貴君の夢に違いない。

夢を実現するためのカギは何か?
1)ウクライナが主権と独立を維持すること。
2)ウクライナに、まともな交渉相手となりうるような政府が存在すること。
この二つである。

ユーラシア連合の中核となるべきは、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、そしてウクライナ。
上記四カ国の連帯が崩れたことこそ、ソ連消滅を引き起こしたのだ。

四カ国がふたたび連帯すれば、それだけでユーラシア連合の基盤はできあがる。
だがアメリカに仕切られた西側諸国が、グローバル化の名のもとウクライナを取り込んでしまえば、ユーラシア連合の誕生はありえない。

ウラジーミル・プーチンに告ぐ。
ウクライナがNATOやEUに加盟することは、貴君にとって絶対に許せないことのはずだ。
そして貴君は、必要なら実力を行使してでもそれを防ぐだろう。
ウクライナ東部国境付近にロシア軍が集結しているのは、理由のないことではない。

だが外交にはムチと並んでアメが不可欠。
国境付近の軍部隊は貴君のムチだ。
ただしいったん、ウクライナにまともな交渉相手となれる政府が誕生したら、貴君はもっと魅力的なアメをちらつかせることができる。

EUと、その黒幕とも言うべき国際金融の元締めたちは、ウクライナを従わせるべく、厳しい経済的な要求を突きつけている。
やらせておけ!
西側諸国の横暴に抵抗しようとすれば、「経済危機克服」に向けた貧困と苦難が待っていると、あらゆるウクライナ人に実感させるのだ。
(注:ウクライナの対外債務は1400億ドル近く。
追放されたヤヌコビッチ大統領は、EUにたいして大規模な援助を求めていた。
ただしEUはこれに色よい返答を見せていない)

そして貴君が、ロシアとしての対案を提示する。
ウクライナがユーラシア連合に参加すれば、西側の横暴に屈しなかった見返りとして巨額の援助を行い、貧困と苦難から救ってやろうと持ちかけたまえ。
(注:2013年、プーチンはヤヌコビッチに大規模な経済支援を申し出ている)

のみならず、対外債務をゼロにするチャンスを与えようと宣言せよ。
どうやって?
ウクライナからクリミアを買い取る形にすることによってだ!

貴君はロシアの大統領である。
片やウクライナがどうなるかは、ユーラシア連合の成否を左右する問題だ。
英断を下したまえ。

ウラジーミル・プーチンに告ぐ。
貴君はKGBの出身だ。
相手が断れないようなオファーを提示し、手なずけるにはどうすべきか?
謀略のプロたる貴君は、そこでの経験から熟知しているはずである。
(終わり)
——————————————————————————————

この公開書簡から学ぶべきものは何か。
ずばり、アメリカとの距離の取り方でしょう。

国家の存立と繁栄を確保するためのオプションは、できるだけ多様にしておくのが望ましい。
日米同盟は、むろん今のところ重要ですが、絶対でも永遠でもないのです。

かりにユーラシア連合のような組織が誕生したら、日本はそこと連携することで、アメリカのグローバリズムに対抗することだって考えられるのです

「僕たちは戦後史を知らない」や「国家のツジツマ」で述べたとおり、戦後日本がアメリカとの関係を絶対視してきたのは、「冷戦下、自由主義陣営に入ったほうが、いろいろ有利だった」というほかに、もう一つ理由があります。

つまりアメリカと一体化したような気分にひたることで、敗戦をめぐる屈辱を隠蔽(いんぺい)すること。
「僕たちは戦後史を知らない」で、私はこう書きました。

「アメリカへの追従こそ、わが国が『より良い日本』、ないし『本来あるべき日本』になる道なのである」
「日本人が敗北の中から勝利をつかむ方法、それは『アメリカ=真の日本』という図式を成立させることだったと言えよう」
(50ページ)

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「国家のツジツマ」における中野剛志さんの発言も引用します。

「(戦後初期は)日本を貧しいままにしておくと、日本が共産主義化してしまうおそれがあったから、アメリカは日本を豊かにしてやった。アメリカのおかげで豊かになった日本は、アメリカと一体化するような心情に陥った。
でも不思議なのは、冷戦が終わってもそうだし、未だにそうなんですよね。なぜそうなのか、よく考えなきゃいけないと思います」
(191ページ)

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スピンラッドさんの公開書簡は、突き詰めれば「あの敗戦をどう位置づけるのか」という問いを、われわれに提起してもいるのです。

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