【藤井聡】長期停滞下における「デフレ完全脱却」を果たすために,徹底的な財政政策を

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授、内閣官房参与

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熊本地震では避難、復興の拠点となるべき公共施設等の被害も目立った。

民間住宅も含め、大きな被害を受けた建物の多くは、新たな耐震基準が適用された1981年以前に建てられた建物だった。これまで「危険だ」と何度も議論になってきたにもかかわらず、こうした旧耐震基準の建物の多くで、耐震化が先送りされてきた。その最大の理由は「財政問題」である。

「そもそも日本に財政問題などない」と語る三橋貴明が、日本の防災安全保障、さらには国土強靭化とは何かについて詳細に解説する。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

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10%への消費税増税が「2年半」延期される見通しとなりました.
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160530/k10010540611000.html

これはすなわち,今から3年4ヶ月後の2019年10月に消費税は10%になるという見通しということです.

ただし,この「判断」の具体的な形には,次の3つの可能性があります.

 ■パターン1:「確実にこのタイミングにする」というパターン

 ■パターン2:「このタイミングに増税する事を基本とするものの,景気が悪ければ増税しないという付帯条項が付ける」というパターン

 ■パターン3:「増税する条件を設定し,その条件をクリアさせるタイミングを,2019年10月にするように,経済財政運営を図る」というパターン

もちろん,10%増税の景気悪化の「リスク」を最小化するには,パターン3が最も望ましく次いでパターン2,となります(ただし,条件の置き方によっては,パターン2と3はほぼ同じ趣旨のものとなるケースも想定されます).

いずれにせよ,どのパターンで増税が延期されるのかは,国会での消費税増税法案の改正の議論の中で検討される見通しです.

ついては今後,財政再建とデフレ完全脱却の双方の達成を着実なものとするような適切な議論が国会で展開されますこと,心から祈念いたしたいと思います.

・・・・

ところで,安倍総理がなぜ増税延期の意志を固めたのかと言えば,それはもちろん,増税によって日本経済が停滞することが真剣に危惧されたからです.

そしてわが国がなぜ,「10%増税には耐えがたい経済状況」にあるのかといえば,
 1)そもそも未だ,「デフレ完全脱却」は果たせておらず,
 2)リーマンショック以後の世界経済が未だ低迷状況にあり,
3)かつ,8%消費増税の後遺症が未だ残存しているから,
です.

これらの中でも特に,先日の伊勢志摩サミットで議論されたのは,2)の世界経済問題でした.そして,総理は,このサミット後の記者会見でも,リーマンショック以後,様々な経済指標が厳しい状況にあることを示している事を指摘しています.
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2016/0527summit.html

(ちなみに,毎日新聞は,この記者会見を報道するにあたり,安倍総理が,
 「リーマン前に似ている」
と発言したと大きく報道しました.
http://mainichi.jp/articles/20160527/k00/00m/010/137000c

この「リーマン前に似ている発言」を巡っては,様々に批判されているようですが,
http://www.huffingtonpost.jp/2016/05/26/lehman-shock_n_10156996.html
http://www.asahi.com/articles/ASJ5W75CZJ5WUTFK00Y.html
総理の記者会見を確認しても,「リーマン前に似ている」という発言は見いだせませんし,事実,総理本人も,そういう発言はしていない,と否定しておられます.
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/799695643464714?pnref=story

いずれにせよ,記者会見発言における各指摘は,今日の世界経済が,非常に厳しい状況にある事を示すものです.

実際,世界中の識者達が,今日の世界状況は,リーマンショックという未曾有の危機以後の「長期低迷」の中にいる事を指摘しています.

スティグリッツ教授は「大低迷(Great Malaise)」の時代と呼び,
クルーグマン教授は,「世界経済が“日本化”Japanificationした時代」にあると指摘し,
サマーズ教授は「長期停滞」the secular stagnationの時代にあると指摘しています.

具体的に言うなら,例えばスティグリッツ教授は,「アメリカはリーマンショック以後,一旦持ち直しているが,精彩を欠いている.つまり,景気が比較的良いと言われるアメリカですら「長期停滞」状況にある.ただしアメリカよりも,長期停滞がより顕著なのが欧州である.そして何より,中国経済は酷い状況にある」という事をデータを用いながら指摘しています.
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusaikinyu/dai1/siryou2.pdf

クルーグマンやサマーズも同様の見解を表明していますし,サミット後の記者会見もこれらの指摘と同様のものとなっています.

これらの指摘はいずれも,我々がリーマンショックという波乱に富んだ危機前の平和な国際経済の中にいるのではなく,リーマンショック後の「長期停滞」時代(あるいは,大低迷の時代,世界の“日本化”時代)に生きていることを示しているわけです.

この様な「長期低迷の時代」では,記者会見発言でも指摘されている通り,長期的に成長出来ず,低迷し続けるという

「リスク」

を正しく認識しその対応を図ることが必要不可欠となります.

そもそもわが国は,リーマンショック後の世界経済の「長期低迷」を過小評価してしまったが故に,消費税の8%増税を図ったのだと解釈することもできるでしょう.その結果,未だに増税ショックが完全払拭できていない状況に苛まれています.

こうした事を総合的に考えれば,「増税延期」は最低限,必要であった事は間違いありません.

ただし――この長期低迷時代の中,未だ継続する8%増税ショックを払拭し,デフレ完全脱却を果たすためには,今回の「増税延期」の判断は最低限果たさねばならない「必要」条件の一つにしか過ぎません.それは決して「十分」条件ではないのです.

すなわちわが国は,増税延期を皮切りとして,今後,徹底的な景気対策を打ち出していかなければなりません.それがなければ,デフレ完全脱却が果たせず,600兆円経済を実現することも,そして財政再建を果たすことも不可能となるでしょう.

その中で今わが国に求められているのは,現在10~20兆円規模で存在している事が危惧されるデフレギャップを埋めるための,補正予算を出動する「財政政策」です.

これを初年度行えば,次年度においてはデフレギャップは幾分縮小することとなるでしょう.しかしそれでももちろん完全解消されることはないでしょう.したがって,次年度もまた,それを埋めるための財政政策が求められることになります.

そしてそうした合理的,かつ,徹底的な財政政策を2~3年程度繰り返せば,その内デフレギャップは完全に解消されることになります.

その時はじめて,わが国は「デフレ完全脱却」を果たしたと宣言できる事が可能となるのです.

つまり,増税延期を決断したわが国は,ようやく,デフレギャップ解消という,20年来のわが国の「悲願」を達成するためのプロジェクトへと駒を進める事が可能となった訳です!

その「悲願」達成の先に,ようやく,600兆円経済=80万円の国民所得増と,財政健全化が見えてくることになります.

デフレギャップを完璧に解消し,デフレ完全脱却を果たすための大国家プロジェクトが成功することを,そして,その成功に向けて一人でも多くの国民の皆様方の協力が得られますことを,心から祈念申し上げたいと思います.

PS デフレ完全脱却,そして,持続的な経済成長を考える上で,絶対に忘れてはならないのは,国家的なインフラ形成プロジェクト.是非,下記ご一読ください.
http://www.amazon.co.jp/dp/4166610775

ーーー発行者よりーーー

熊本地震では避難、復興の拠点となるべき公共施設等の被害も目立った。

民間住宅も含め、大きな被害を受けた建物の多くは、新たな耐震基準が適用された1981年以前に建てられた建物だった。これまで「危険だ」と何度も議論になってきたにもかかわらず、こうした旧耐震基準の建物の多くで、耐震化が先送りされてきた。その最大の理由は「財政問題」である。

「そもそも日本に財政問題などない」と語る三橋貴明が、日本の防災安全保障、さらには国土強靭化とは何かについて詳細に解説する。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php