政治

2016年5月24日

【藤井聡】「新・消費税法案」における2つの「絶対原則」〜増税前の「デフレ完全脱却」原則と,増税後の「均衡財政」原則〜

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授、内閣官房参与

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貧困には2種類ある。
先進国型と発展途上国型。

そして、先進国日本が発展途上国型の貧困に陥る時がある。

財政破綻論、いわゆる国の借金問題、公共事業批判など、
「お金」に最上の価値を見出している政府、財務省、そして現代の日本人。

皮肉にも、発展途上国型貧困ではお金は価値を持たなくなる。

我々が見失ったものは何だったのか?
その答えがここにある・・・

最新号「国家と防災安全保障〜日本を滅ぼす危機の本質」
http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag2.php

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来年4月の10%消費増税については,実に様々な報道が繰り返されています.

(例えば http://www.sankei.com/politics/news/160328/plt1603280011-n1.html
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS23H5E_T20C16A5PP8000/

こうした報道を受けてここ最近は「増税は規定路線か?」という雰囲気が漂っていたやに思われますが,ここに来て,「増税延期」論の立役者の一人であった山本幸三衆議院議員(※)が代表を務める「アベノミクスを成功させる会」(以下,「成功させる会」)が,

  「予定通り,増税を」

という主張を提案を取りまとめたことで,少々雰囲気に変化が見られるようです.
http://jp.reuters.com/article/ldp-abenomics-idJPKCN0YA35M 
(※ http://www.asahi.com/articles/ASJ4F6SZ2J4FUTFK00Y.html )

「成功させる会」の提案には,多くのマスメディアが着目していましたから,かつての主張から一転して「予定通り増税すべし」という提案をとりまとめたのは,一定以上のインパクトがもたらされています.

筆者は「増税によってデフレ脱却が出来なくなるリスク」が大きく増進すると考えますので,その点については同意しかねますが,少なくとも次の「成功させる会」提言の二点については,傾聴に値する側面があるのではないかと考えます.

1)増税はマクロ経済に破壊的影響を及ぼすこと
2)成長出来ない経済を一気に成長させるためには,現実的には「財出」以外考えられない.

この二点は,例えば,当方が山本議員の「成功させる会」に提言差し上げた五提言と軌を一にしているものと考えられます.
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-05-11/O6ZNIN6S972901
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/791735744260704

一方で,「成功させる会」提言では「10%増税のネガティブ・インパクト」が「4兆円強の財出を3年行えば相殺できる」と主張されています.が,それは全く保証されたものではない,と言う他ありません.

なぜなら,「デフレ脱却前の増税インパクト」を「4兆円」_「3年」で相殺できる保証はどこにも無いからです(注1).したがって,このご提言は極めて「リスキー」であると考えます.

ついては以上の諸点を踏まえるなら,「成功させる会・提案」は,「増税延期」の点だけ調整して,次の様に「修正」することが得策ではないかと考えます.
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/795769953857283

【修正版・成功させる会提案】
(1)10%増税は延期 
(2)財務省が「早急なデフレ完全脱却の実現」、「GDP600兆円目標達成」等をコミット。
(3)その上で、デフレ完全脱却のための、十分な財出の実施
 ・初年度:11〜16兆円規模の財出
 ・次年度:6兆円
 ・次々年度3兆円 

この「修正版・成功させる会提案」は,より一層「デフレ完全脱却に基づく600兆円経済実現」を達成する可能性を増進させているものと,筆者は考えます.

しかし――この修正提案にも,改善の余地が残されています.

それは,「毎年の財出額」が,「11〜16兆/6兆/3兆」で事足りるかどうかが,不透明だ,という点です.したがって,財出額は当方としては,上記の(3)の代わりに,

「(3)デフレギャップを毎年推計し,それを十分に埋めることができるだけの財出を行う」

とすることが不可欠であると考えます(ただし,その場合は,「デフレギャップ」を適正に評価することが前提ですが).

・・・

ところで,以上の提案(増税延期)を「実現」するにあたっても,法治国家であるわが国においては,

  「消費税増税法案」

について,国会審議において再調整していくことが不可欠となります.

この点については,「全くの廃案とする」ことが有力オプションであると思われます.

しかしそれが万一それができないとするなら――その場合は,新たに検討される「新法案」は,少なくとも次の条件は満たしておくべきであると考えます.

――――――――――――――――――――――――――――
【増税法案の第一原則】=増税「前」のデフレ完全脱却原則
 消費増税は,「デフレ完全脱却」が果たせない限り,絶対にしない.
――――――――――――――――――――――――――――

この原則が守られなら,「増税によってデフレが深刻化してしまう」という悪夢のような事態が回避可能となります.

とはいえ,この原則だけでは不十分です.なぜなら,仮にデフレ完全脱却が実現していたとしても,「10%増税によって,再びデフレ化してしまう」リスクが残るからです.

ついてはこのリスクを回避するために,次のもう一つの条件も,必要不可欠です.

――――――――――――――――――――――――――――
【増税法案の第二原則】=増税導入後の「均衡財政」原則
 消費税増税によって再デフレ化する事態は絶対回避することが必要である.そのためにも,消費増税による「増収分」は,「累積債務返済」に回すのでは無く「全て財政出動することを前提」としなければならない.
――――――――――――――――――――――――――――

以上の「2原則」が満たされないまま,増税されてしまえば,わが国が「デフレに逆戻り」してしまうことが深刻に危惧されてしまいます.

だから,この2条件は増税にあたって絶対的に死守すべき「2原則」なのです.

・・・

そして最後にもう一つ付言するなら,この「第一原則」を満たすためには,本稿前半で論じた様に,

「財政政策」

が必要不可欠です.

この点も含めて,以上の議論を改めてまとめますと,

  「財政政策によるデフレ完全脱却」

が可能となった場合に限り,

  「増税」の検討を始める事が可能となる

のであり(増税第一原則),その結果,実際に増税された場合には,

  「再デフレ化」を防ぐために増収分は全額支出する

ことが最低限求められるのです(増税第二原則).

以上,複雑な議論であったかもしれませんが,この複雑な議論を当たり前のように理解する者だけが,

「デフレ完全脱却
 ⇒(2020年頃の)600兆円経済実現
 ⇒ 抜本的財政健全化」

を果たすことが可能となるのです(注2).

わが国が「この道」を着実に進まれんことを,心から祈念したいと思います.

(注1)そもそも「均衡財政乗数論」は,「デフレ」が必ずしも想定されておらず,増税インパクトが過小評価されている疑義が濃厚です(だからこそ,デフレ下で「税収上振れ」が生じたケースでは,それを支出する事は「絶対的必要条件」となります.http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/01/05/fujii-177/ )

(注2)「600兆円経済」を実現し,本格的に財政再建を果たすためにも,増税の「タイミング」を「確約」することは厳に控えなければなりません.もちろん,特定のタイミングを,(徹底的な3年限定の大規模財出による「デフレ完全脱却」を目指す事を通して)「目指す」事は以上の議論と必ずしも矛盾するものでは有りません(例えば,http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS23H5E_T20C16A5PP8000/).しかし例えそれを「目指した」としても,本稿で指摘した2原則が満たされないのなら,如何なるタイミングであっても増税は控えるべきである事は,論を待ちません.

ーーー発行者よりーーー

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貧困には2種類ある。
先進国型と発展途上国型。

そして、先進国日本が発展途上国型の貧困に陥る時がある。

財政破綻論、いわゆる国の借金問題、公共事業批判など、
「お金」に最上の価値を見出している政府、財務省、そして現代の日本人。

皮肉にも、発展途上国型貧困ではお金は価値を持たなくなる。

我々が見失ったものは何だったのか?
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http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag2.php

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【藤井聡】「新・消費税法案」における2つの「絶対原則」〜増税前の「デフレ完全脱却」原則と,増税後の「均衡財政」原則〜への7件のコメント

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  2. 學天測 より

    PSもしかしたら10%増税+軽減税率よりも、8%のままの方が課税が重く、国民に経済制裁できるという、嘘つき財務省の趣味の嫌がらせでしょうか?

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  3. 學天測 より

    増税延期でも軽減税率は出来うる限り早く、先行実施すべきでしょう。生活に関わる物は出来うる限り、5%に戻すべきですよ。正直、増税するという議論を未だしているのがあほ丸出しとかしいいようがないし、頭おかしいんじゃないかとすら思いますがとにかく、軽減税率をどうするかの話が全くでないのが不可思議でなりません。

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  4. 吹田のおやじ より

    民進党が消費税増税を3年先延ばしにする法案を提出するそうです、対する自民党公明は一応今のところ規定通り増税と言ってますが、消費税は増税など延期せず5%に戻す減税法案を出して選挙戦をやれば確実に自公民与党の圧勝で衆参で共に3分の2以上の議席が確保され憲法改正も容易にになると思います。消費税5%で期限を切らず場合をによっていつ再増税するかわからないと言いながら過ごせば、国民は5%の内に欲しい物を購入するでしょう。これができればGDP600兆など単年でクリアできるでしょう。加えて財政出動は10年間毎年10兆円規模でやればGDP700〜800兆になるかも知れません。経済政策はこれくらいやらないと駄目です。次の世代にツケを回すのかとかいう奴には言わせておけば良い。その頃には先代世代のお陰で安心安全な暮らしが出来ますと感謝されるかも知れませんね。

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  5. たかゆき より

    追記将棋電王戦は第二局もポナンザの勝利で対戦を終了素晴らしい!!棋譜は日本将棋連盟のホームページから無料で ご覧になれます。

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  6. 神奈川県skatou より

    藤井先生のご活躍を熱く応援しております。とても丁寧なご説明で自分にもわかったような気になりました。誰にでも分かるのだろうか、心に響くのか、特に為政者の方々にはどうなんだろうと考えてしまいました。そして、中央官僚を外部から動かす力と言うのはなんだろうと、ふと考えた時、思い浮かべたものがふたつありました。ひとつは権威。権力ならば、それはかれら自身がその一部だという認識でしょうから、その対抗として権威では、ということです。日本の政治は皇宮のお方の存在のおかげで権威と権力は比較的分離されていると思われるので、権威は権力に有効ではないか、ということです。そしてそれは別の業界でも可能であり、学会の権威の影響もとうぜん効果があるだろうという推測です。もうひとつはヒエラルキー。それこそ権力の根拠ですから、その原則は根本的であろうはずで、その点で効果的だと思われました。その意味で人事は大事だったのかもしれません。彼らの作る文章に埋め込まれるうんざりするほどたくさんの世間的ステレオタイプによる正当化も、もしかするとそれは権威の無い彼らが権力を行使する際のイイワケであり、それら陳腐な文言は本意でも行動原理でもないのかもしれません。

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  7. たかゆき より

    デフレを 詰ます♪3手で詰みますよね皆様 仰ってますように、、初手 消費税廃止玉が どこに逃げても頭金 財政出動で 詰んでます。。。どうして こんな簡単な詰みを何年も逃してるんでしょうかもしかして ヘボ??囲碁界では 囲碁ソフトのアルファー碁が 世界的なトッププロに4勝1敗将棋界では 将棋ソフトのポナンザが ほぼトッププロと対戦中ですけど 初戦 勝利経済の分野でも ヘボどもを駆逐する優秀なソフトを 開発してほしいと心の底から思っているのだ♪ソフトの名称は もちろんケイセイサイミン でしょ _

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